殘唐五代史演義傳第三回 赤牆村に黄巣、身を起こす (赤牆村黃巢出身)

要約

朝廷は昏乱して佞臣が権勢を占め、曹州の王仙芝と濮州の尚君長が反し、唐は令孜に兵十万で討たせた。曹州冤句県赤牆村の塩商黄宗旦の妻田氏は、巣林で黄衣の小児が黄気と化して懐に飛び込み、胎に二十五月宿して、眉は一の字、鼻に三つの穴、背に八卦、胸に七星という子を産んだ。宗旦は溝に捨てたが、土地神が巣樹の鴉鵲の巣に移し、旬日後に宗旦が拾って黄巣と名づけた。字は巨天、経史に博く武芸に精通した。乾符三年、旱に荒れて広平元年と改元、庚子の歳である。

巣は長安の武挙に及第して状元となったが、朝見で令孜が引き合わせると、僖宗はその異相を怖れ怒って及第を取り消した。容貌を嫌われたと知った巣は、街頭の雄鶏が呼びかけに二度鳴いたのを喜んで雄鶏の五徳と志を詠む詩を書き、酒館の白壁には僖宗は賢才を抜擢できぬと罵る詞と浩然の気概を詠む詩を重ね、唐朝の天下を奪うと誓って長安城を出た。僖宗は令孜の奏に従い、黄巣を捕らえ家財を没収せよと榜文を張らせた。

長安城外の蔵梅寺では、法明長老が瑠璃灯の油の減りを咎め、弟子が張り込むと二鬼が盗んでいた。鬼は陰司で生死輪回の冊を編むのに灯油が要ると言い、冊には黄巣が帝王の分を持ち、兵を起こして唐を乱し、手始めに蔵梅寺で法明を斬り、以後人を殺すこと八百万、血の流れ三千里に及ぶと載ると語った。助命を乞う長老に、鬼は黄巣が殺さぬ以外に道は無いと答えて去り、長老は毎日行者を山門の外で待ち受けさせた。黄巣は山路を逃れ、ある山で険しい眺めと山寺を詠む詩を重ねた。

現代語訳全文

朝廷の昏乱と各地の反乱

  • このとき朝廷は昏く乱れ、佞臣が権勢の座を占めていた。銭のある者は重い任に就き、銭の無い者は用いられない。
  • そのため曹州では王仙芝が、濮州では尚君長が反した。唐は令孜を遣わし、兵十万を率いて討ち除かせた。
  • 世の盛衰も国の興廃もみな定まった数がある。太平の時節には国に英雄がいて社稷を支え、離乱の時には天が奸佞を生んで乾坤を乱す。

黄巣の出生

  • 曹州冤句県の赤牆村に、姓を黄、名を宗旦という者がいた。代々の塩商である。妻の田氏を娶って家へ帰る道すがら、巣林を通り過ぎたところ、地べたに座った小児がいた。黄色い衣を着て、田氏を母と呼び、一筋の黄色い気と化して田氏の懐に飛び込んだ。
  • 田氏は帰るとすぐに身ごもり、胎に宿すこと二十五月、ある日に産み落とした。その姿は怪異で、身の丈は二尺、眉は一の字に横たわり、歯は二本並び、鼻に三つの穴があり、左腕には蛇の形をした肉の盛り上がりが一筋、右腕には珠の形をした肉の瘤が一つ生え、背には八卦、胸には七星があった。宗旦はこれを見て驚き疑い、この子を溝に捨ててしまった。
  • そこへ土地神がこの子を移し、巣樹の上の鴉鵲の巣の中に置いた。旬日を経て宗旦がまた巣林を通りかかると、ふと樹の上から小児の泣き声が聞こえた。目を上げて見ると、七日前に捨てたその子である。そこで取り下ろした。
  • 宗旦は驚いて「この子は奇異だ」と言い、抱いて家に帰り、あらためて田氏に育てさせ、名を黄巣と付けた。長じて字を巨天といった。経史を博く読み、武芸に精通した。
  • このとき乾符三年、天下は荒れて旱となり、元号を改めて広平元年とした。庚子の歳である。

武挙の状元と取り消し

  • 巣は長安で大いに武の試験を開き英才を募ると聞き、父母に別れを告げて長安へ赴いた。場に入って試験を終えると、果たして武挙の状元に及第した。
  • 翌日、帝に朝したとき、令孜が駕前へ引いて旨を請うた。帝が「どれが状元か」と問い、令孜は「この者が状元でございます」と奏した。
  • 僖宗はひとめ黄巣を見た。身の丈は一丈、肩幅は並外れて広く、顔は金紙のよう、眉は一の字に横たわり、歯は二本並び、鼻には三つの穴がある。おそろしさに魂が身を離れるほどで、しばらくしてようやく落ち着いた。僖宗は大いに怒り、黄巣の及第を取り消して用いなかった。

反詩と誓い

  • 当直の官が「朝廷はおまえの醜い容貌を嫌ったので、用いようとせぬのだ」と告げた。
  • 黄巣は朝門の外へ退き、黙って嘆いた。「詔書には文章と武芸で選ぶとあるだけで、面相をえり好みするとは書いてなかった。昏君が面相で人を取ると初めから知っていれば、自分も来はしなかったものを」と。
  • 家に帰ろうとしたが父母に会わせる顔が無い。大丈夫たる者、こそこそ隠れて事をなすものではないと、袖から筆を取り出した。
  • そこへ街頭の錦毛の雄鶏が、黄巣に向かって一声鳴いた。巣は「昏君は賢を見分けられぬのに、鶏のほうが賢を見分けるか」と言い、鶏に向かって「鶏よ、自分に天下を得る分があるなら、大きく一声鳴け」と呼びかけた。鶏はまた一声鳴いた。巣は大いに喜び、筆を執って八句の詩を書いた(詩:雄鶏の五徳と志を詠む)。
  • 詩を作り終えると酒館に入って酒を飲み、興に乗じてさらに白壁の上に反逆の詞を書きつけた。「昏君は政を失い、邪悪な者を寵愛して用い、世は荒れ果てて離乱し、文武ともに無能である。唐の僖宗は目があっても瞳が無く、賢才を見ても抜擢できない。惜しいことに自分の十年の辛苦も、今日に至って名を成せずじまいだ」と。
  • 心の中では、昔の楚漢の争いに思いを馳せていた。一方は力が泰山を抜き、一方は度量が滄海のように広く、その二人が烏江で戦い、英雄が互いに当たり、咸陽に至って火徳が興り始めた。自分もまた志は天の川と北斗を凌ぐほど高く、気は虹霓を吐くほどで、一頭の馬と一振りの刀で天下を横行し、刀と兵の動くところ、唐朝をひと息に呑み込んでやろうというのである。
  • 続けて、証拠として詩を重ねた(詩:浩然の気概と大志を詠む)。
  • 黄巣は詩と詞を書き終えると、琴と剣と書箱を片づけて長安城を出た。天に向かって「黄巣がもし寸ばかりでも進み出ることができたなら、必ず唐朝の天下を奪い取ってみせる」と誓い、言い終わって去った。
  • 城を巡る軍官が反詩を見つけ、書き写して朝廷に奏上した。僖宗はすぐ令孜を召し、「黄巣が反詩を書き、朕の天下を奪おうとしている。卿はこれをどう処置するか」と問うた。
  • 令孜は「主上、お心を広くお持ちください。勅して似顔絵を描かせ、賊の黄巣を捕らえ、その家財を没収なさいますよう」と奏した。帝はその奏を裁可し、ただちに榜文を書かせて各所に張り出させた。この件はひとまず措く。

蔵梅寺の二鬼と生死輪回冊

  • さて長安城の外に蔵梅寺という寺があり、寺には法明長老という僧がいた。ある日、僧衆を率いて堂に上がると、瑠璃灯の光が明るくない。見ると中に油が無く、長老は弟子をひどく咎めた。
  • 弟子は「私は毎晩油を足しております。油がどこへ行ってしまうのか分かりません」と答えた。
  • その晩、その僧は堂内に隠れた。二更にもならぬうち、二匹の鬼が素焼きの瓶を手に提げ、堂内へ来て油を盗んだ。その僧は急いで長老に報せたが、長老は信じない。翌晩もまた堂内に隠れていると、二鬼がまた油を盗みに来た。その弟子が急いで長老に報せ、長老は行者たちを引き連れて堂へ来ると、果たして二鬼が油を盗んでいるのを見た。
  • 長老が、油を盗んで何に使うのかと問うと、二鬼は答えた。「いま三曹の陰司で生死輪回の冊を編んでいるが、灯をともす油が無い。そこで我らを各地の寺観へ遣わし、油を取って用に充てているのです」と。
  • 長老がさらに、その冊には何が載っているのかと問うと、二鬼は答えた。「その冊に言うには、姓は黄、名は巣、字は巨天という者がいる。眉は一の字に横たわり、歯は二本並び、鼻に三つの穴があり、顔は金紙のようで、帝王となる分がある。目下、兵を起こして唐を混乱させ、その手始めを蔵梅寺でつける。その殺生の口火として、まず法明という僧一人を斬る。その後、人を殺すこと八百万、血の流れは三千里に及ぶ」と。
  • 長老は聞き終えて二鬼に「おまえたち、わしの命を救ってくれぬか」と言った。二鬼は「天曹ではもう一部を編み上げて送り出してしまった。黄巣が殺さずにいてくれる以外に助かる道はない」と答え、鬼使は言い終わって去った。
  • 長老は思い悩み、毎日、行者を一人ずつ山門の外に遣わして待ち受けさせた。

黄巣、山路を逃れる

  • 黄巣は朝廷が捕縛の榜文を出し、四方で捕らえようとしていると聞き、山路づたいに逃げた。ある日ふと一つの山に着き、あたりを望んだ(詩:山中の険しく寂しい眺めを描く)。
  • さらに証拠として詩を重ねた(詩:山寺の壮麗な佇まいを詠む)。
  • 黄巣がどのように事を起こすかは、次回に続く。
原文(底本)
時朝廷昏亂,佞臣當道,有錢重任,無錢不用,因此曹州反了王仙芝,濮州反了尚君長,唐遣令孜領兵十萬剿除。世之盛衰,國之興廢,皆有定數。太平時節,國有英雄扶社稷;離亂之時,天生奸佞亂乾坤。

  卻說曹州冤句縣赤牆村,一人姓黃名宗旦,世為鹽商,娶妻田氏回家,逕從巢林經過,見一小兒席地而坐,身穿黃衣,叫田氏為娘,化一道黃氣衝入田氏懷中,田氏歸即有孕,懷胎二十五月,一日誕下,形容怪異,身長二尺,眉橫一字,牙排二齒,鼻生三竅,左臂生肉滕蛇一條,右臂生肉隋球一個,背上有八卦,胸前有七星。宗旦見了驚疑,遂將此子丟在溝渠。

  時有土地將此子移在巢樹上鴉鵲窠中。經過旬日,宗旦復從巢林經過,忽聞樹上小兒叫聲,宗旦舉目視之,乃七日前丟的小兒,遂取將下來。宗旦驚曰:「此子奇異。」乃抱回家,仍命田氏撫育,取名黃巢,及長,表字巨天。博覽經史,精熟武藝。

  是時乾符三年,天下荒旱,改為廣平元年,庚子歲。

  巢聞長安大開武試,招募英才,即辭父母,竟赴長安,入場試畢,果中武舉狀元。次日朝帝,令孜引至駕前請旨。帝問:「那個是狀元?」令孜奏曰:「此人是狀元。」僖宗一見黃巢,身長一丈,膀闊三停,面如金紙,眉橫一字,牙排二齒,鼻生三竅,唬得魂不護體,半晌方定。僖宗大怒,將黃巢革退不用。

  當駕官說:「朝廷嫌你丑貌,故不肯用。」黃巢退出朝門之外,默然歎曰:「明詔上只說選文章武藝,不曾說揀面貌,早知昏君以面貌取人,我也不來。」本欲回家,羞見父母,大丈夫不做暗事,袖中取出筆來。只見街頭一隻錦毛雄雞,望黃巢叫了一聲。巢曰:「昏君不識賢,雞倒識賢。」就對雞說:「雞,我若有天下之分,你大叫一聲!」那雞又叫一聲,巢大悅,舉筆寫詩八句云:

    雄雞有五德,今朝見我鳴,

    頂上紅冠正,身披紫錦文,

    心中常懷義,大叫兩三聲,

    喚出扶桑日,重教天下明。

  巢作詩畢,進酒館飲酒,乘興又在粉牆上寫反詞云:

    昏君失政,寵用奸邪,荒荒離亂,文武無能。唐僖宗有眼無珠,見賢才不能擢用,可惜我十年辛苦,到今日不得成名。

  暗思昔日楚漢爭鋒,一個力拔泰山,一個量寬滄海,他兩個戰烏江,英雄抵敵,詣咸陽火德肇興。某也志高漢鬥,氣吐虹霓,意欲匹馬單刀,橫行天下,管取那刀兵動處,把唐朝一旦平吞。

  有詩為證:

    浩氣騰騰貫鬥牛,班超投筆去封侯,

    馬前但得三千卒,敢奪唐朝四百州。

  黃巢寫下詩詞,即收拾琴劍書箱,出了長安城,對天誓曰:「黃巢若得寸進,定要奪取唐朝天下!」言罷而去。卻說巡城軍官看見反詩,抄奏朝廷,僖宗即宣令孜曰:「黃巢寫下反詩,要奪朕之天下,卿何治之?」令孜奏曰:「我主寬心,乞敕畫影圖形,捉拿巢賊,抄沒其家。」帝准其奏,即時命寫榜文,各處張掛,不在話下。

  卻說長安城外,有一藏梅寺,寺中有個法明長老,一日領眾僧上殿,見琉璃燈光不明,視之只見裡面無油,深怪徒弟。

  徒弟曰:「我夜夜添油,不知油在那裡去了。」至晚其僧隱於殿內,未及二鼓,忽見二鬼手提瓦罐,到於殿內偷油。其僧急報長老,長老不信,至次晚復隱於殿內,二鬼又來偷油,其徒急報長老,長老即引眾行者到殿,見二鬼果在偷油。長老問二鬼偷油作何用,二鬼答曰:「今有三曹陰司,攢造生死輪回冊,無油點燈,因此差我們到各寺觀取油應用。」長老又問二鬼曰:「冊內載的是什麼事?」二鬼答曰:「那冊內說,一人姓黃名巢字巨天,生得眉橫一字,牙排二齒,鼻生三竅,面如金紙,有帝王之分,目下起兵混唐,在藏梅寺起手,開刀先殺一僧名法明,他將後殺人八百萬,血流三千里。」長老聽罷對二鬼云:「你可救我一命?」二鬼道:「天曹已先攢造一本去訖,除非黃巢不殺方好。」鬼使說罷而去。長老煩惱,每日差一行者在山門外伺候。

  卻說黃巢聽得朝廷出捉拿榜文,四方捕捉,遂從山路逃走,忽一日到一山,但見山頭:

    雲靄靄霧漫漫,水潺潺,石蹬蹬。鳥啼古木,鶴唳老松。路盤狐兔跡交加,谷應豺狼聲咆哮。行人難進步,正是老僧家。

  又有詩為證:

    壯哉山寺石岩邊,渺渺遙瞻斗柄連,

    殿閣巍峨侵碧漢,樓臺繚繞漱清泉。

    金鐘隱隱雷聲吼,寶塔重重月影圓,

    靜聽法華皆梵語,誰知此處有西天。

  欲知黃巢如何起事,且看下回分解。

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