十七史百將傳巻一 呉 孫武
現代語訳
Kindle版『現代語訳 十七史百將傳 1 巻一〜巻五』(全2巻の第1巻)として出版する予定です。
要約
孫武子は齊の人で、兵法をもって吳王闔廬に謁見した。闔廬が婦人で兵を試せるかと問うと、孫子はできると答えた。
闔廬が出した宮中の美人百八十人を二隊に分け、王の寵姫二人を隊長とし、戟を持たせて前後左右の合図を教え、鈇鉞を据えて三度命じ五度念を押した。太鼓で合図しても婦人たちは大笑いし、孫子は、約束が明らかでなく命令の申し渡しも徹底していないのは將の罪だと言った。命じ直して再び笑われると、すでに明らかにしたうえで法のとおりにしないのは吏士の罪だと言い、隊長を斬ろうとした。
吳王は臺の上から驚いて、この二人を斬るなと使者に言わせたが、孫子は、將が軍にあるときは君命であっても受けない場合があると言い、隊長二人を斬った。
ふたたび太鼓を打つと、婦人たちの動きはみな規矩や墨縄にかない、声を出す者もなかった。兵は整い水火にも赴かせられると報告させたが、吳王は下りて観ることを望まず、孫子は、王はその言葉を好まれるだけで実を用いられないと言った。闔廬はついに孫子を將とし、西のかた強大な楚を破って郢に入り、北のかた齊・晉を威圧して名を諸侯に顕した。孫子はこれにあずかって力があった。
孫子はいう、法令はどちらがよく行われているか、君命であっても受けない場合がある、と。孫武が隊長二人を斬ったのが、これである。
原文(底本)
孫武子者,齊人也。以兵法見於吳王闔廬,闔廬曰:「子之十三篇,吾盡觀之矣,可以小試勒兵乎?」對曰:「可。」廬曰:「可試以婦人乎?」曰:「可。」於是許之,出宮中美人得百八十人。孫子分為二隊,以王之寵姬二人各為隊長,皆令持戟,令之曰:「汝知而心與左右手背乎?」婦人曰:「知之。」孫子曰:「前則視心,左視左手,右視右手,後即視背。」婦人曰:「諾。」約束既布,乃設鈇鉞,即三令五申之,於是鼓之右,婦人大笑。孫子曰:「約束不明,申令不熟,將之罪也。」復三令五申而鼓之左,婦人復大笑。孫子曰:「約束不明,申令不熟,將之罪也。既已明而不如法者,吏士之罪也。」乃欲斬左右隊長。吳王從臺上觀見且斬愛姬,大駭,使使下令曰:「寡人已知將軍能用兵矣,寡人非此二姬,食不甘味,願勿斬也。」孫子曰:「臣既已受命為將,將在軍,君命有所不受。」遂斬隊長二人。於是復鼓之,婦人左右、前後、跪起皆中規矩繩墨,無敢出聲。於是孫子使使報王曰:「兵既整齊,王可試下觀之。唯王所欲用之,雖赴水火猶可也。」吳王曰:「將軍罷休就舍,寡人不願下觀。」孫子曰:「王徒好其言,不能用其實。」於是闔廬知孫子能用兵,卒以為將,西破強楚入郢,北威齊晉,顯名諸侯,孫子與有力焉。 孫子曰:「法令孰行。」又曰:「君命有所不受。」武之斬二隊長是也。