殘唐五代史演義傳第十四回 鴉館楼で朱温、帯を賭ける (鴉館樓朱溫賭帶)

要約

諸侯が二人を押さえ、身内で殺し合っては軍に不利だと諫めて怒気は収まった。朱温は、大王が酒色に溺れて軍情を顧みぬと外で評されているのを聞き刺激しに来ただけだと言い、晋王も承知していると答えた。そこへ孟絶海の兵が着いたと報じられ、朱温は大王みずから先陣を務められよと言った。

晋王は怒り、五百の家将と十三太保から痩せて弱そうな者一人を出して孟絶海を生け捕ってこさせよと命じた。朱温が、孟絶海は東西二京を奪い斬った将は三百八十余員の無敵の英雄だと教えても取り合わない。楼を降りた朱温は十二人しかいないのを嗣源に問い、城壁の下で居眠りしているのが飛虎将軍李存孝だと聞いた。

朱温が、骨の痩せたこれも太保かと大笑し、頭を揺さぶって胡虜めと呼ぶと、激怒した存孝は片手でつかんで放り投げた。鼻と口から血を流した朱温が命を乞い、楼上の晋王がならぬと叫んで存孝は手を止めた。咎められた存孝が胡虜と呼ばれたと答えると、その二字を憎む晋王に朱温は詫びた。

晋王が孟絶海を生け捕れと命じると、朱温は、捕らえたなら腰の玉帯を渡すと賭け、存孝は捕らえられなければ首を割いて渡すと応じ、袁容が存孝、王重栄が朱温の保証人となった。存孝は単騎で河中府を出た。

存孝が降れと喝すると、孟絶海の副将彭白虎が出て、生け捕って血祭りにすると言った。存孝が名乗り、白虎が前部大将軍の孟と言いかけたとたん、その先を言わせず槍を払って生け捕った。孟絶海を捕らえたと告げて諸侯は驚嘆したが、白虎が自分は彭白虎だと言い出し、晋王は怒ってもう一度捕らえて来いと命じ、白虎は斬られた。晋王は午の時を限りと定め、顔を知らぬという存孝の願いで同郡の華州節度使韓鑒が目印に同行した。孟絶海は挑まれても応じず、部将の班翻浪が出たが、小卒が出て何になると言われて突きかかり、存孝の畢燕撾に脳漿を飛ばして討ち殺された。

現代語訳全文

二人を引き離す

  • 諸侯たちが駆け寄り、二人の刀と剣を押さえて、前に跪いて言った。「まだ賊を討たぬうちから身内で殺し合っては、軍にとって不利でございましょう。」諸侯が力を尽くして諫めたので、二人の怒気はようやく収まった。
  • 朱温は剣を鞘に納め、進み出て言った。「臣はあえて君を殺しに参ったのではございません。実は外の者が大王を、酒色に溺れて軍情を顧みないと評しているのを耳にし、これを聞いて憤懣に堪えず、それゆえ参って刺激しに来ただけのことです。」
  • 晋王は「わしもそれは承知している」と言った。

孟絶海参陣と選抜の命

  • 話しているうちに、黄巣配下の前部将・孟絶海が兵を率いて到着したとの報が入った。諸侯はこれを聞いて皆驚き疑ったが、朱温だけはひそかに喜んだ。「孟絶海の兵が来たのなら、この老いぼれをだまして戦場へおびき出し、刀の試し物にしてやろう。」
  • 朱温は進み出て大声で言った。「いま孟絶海の兵が到着いたしました。大王みずから真っ先に打って出て、先陣をお務めくださいませ。」
  • 晋王は怒って言った。「朱温、そなたはまことに無礼な奴だ。朝廷の旨を受けてわしが天下の諸侯を統べているのだ、そなたの多言など無用である。大口を叩くわけではないが、明日黄巣を破るにも、そなたら諸侯の手を借りる要はない。楼を降り、わしの五百の家将と十三太保の中から、良い者を選ぶことなく、ただ一人、痩せて見るからに弱そうな者を選んで出し、あの孟絶海を生け捕ってこさせよ。わしが直に巣賊の消息を問いただす。」
  • 朱温は言った。「大王は孟絶海の腕前をご存じない。臣がお教え申しましょう。あの者は嶺南の生まれで、黄巣とともに挙兵して唐の東西二京を奪い、斬った将は三百八十余員にのぼります。陣前に出れば誰も手合わせしようとせぬ、まことに無敵の英雄でございます。」
  • 晋王は「奴を褒めるには及ばぬ。ただ痩せた者を一人選んで出せばよい」と取り合わなかった。

存孝、朱温を投げ飛ばす

  • 朱温が急ぎ楼を降りて五百の家将を見ると、それはまるで西天の会に列する黒殺神、霊霄殿に遊ぶ天の士のようであった。十三太保を見れば、山に登って虎の牙を叩き折り、海に入って竜の角を抜くほどの猛者ぞろいであった。
  • ところが李嗣源・李嗣昭・李存勗・李存直・李存江・李存竜・李存虎・李存豹・李存受・康君利・李存信と、そこには十二人しかいない。朱温は嗣源に問うた。「そなたの父君は十三太保がいると言われたが、なぜ十二人しかおらぬのか。」
  • 李嗣源は答えた。「あの城壁の下で、折れた槍の柄にもたれて居眠りしているのが、十三番目の太保、飛虎将軍の李存孝だ。」
  • 朱温は近寄って見ると大笑いして言った。「存孝は身の丈七尺にも足らず、骨は柴のように痩せている。これも太保か。それならこいつを選んで出せばよい。」そう言って存孝の頭を揺さぶり、「胡虜め、そなたの父君のご命令だぞ」と呼びかけた。
  • 胡虜と呼ばれたことを聞いた存孝は激怒し、片手でつかみ取って放り投げた。朱温は鼻と口の両方から鮮血を流し、大声で叫んだ。「太保、命ばかりはお助けを。」
  • 楼上からこれを見ていた晋王が「ならぬ」と叫ぶと、存孝はその声を聞いてすぐに手を止め、「命拾いしたな。父王の制止がなければ、そなたを肉の泥にすり潰してやったものを」と言い、朱温を放して共に楼へ上がった。
  • 晋王は内心ひそかに喜びながら、存孝に言った。「朱温は一鎮の諸侯であるぞ、どうして戯れたりしたのか。」
  • 存孝は「私が戯れたのではありません。あの者が私を胡虜と呼んだのです」と答えた。晋王はもとより「胡虜」の二字で呼ばれることを何より憎んでいた。朱温は「臣の罪でございました」と詫びた。

玉帯と首の賭け

  • 晋王は存孝に、孟絶海を生け捕りにして連れてくるよう命じた。「わしはあの者に軍勢の数を問いただしたいのだ。」
  • 朱温は言った。「この病人のような男が、もし孟絶海を生け捕ってきたなら、臣は存孝と賭けをいたしましょう。」晋王が「何を賭けるのか」と問うと、朱温は「存孝が孟絶海を捕らえたなら、俺は腰の玉帯を進んで渡そう」と答えた。
  • 存孝は「私が孟絶海を捕らえられなければ、この首を割いて朱温に渡します」と応じた。
  • 晋王は「二人が賭けるというなら、必ず二人の保証人を立てねばならぬ」と命じた。函国公袁容が進み出て「臣が存孝の保証をいたします」と言い、節度使王重栄も進み出て「臣が朱温の保証をいたします」と言った。
  • 話がまとまると、存孝は楼を降り、甲冑を着けて馬に乗り、まっすぐ河中府を出て戦いを求めに行った。

存孝、彭白虎を生け捕る

  • 馬を率いて出る存孝を見た嗣源が「弟よ、単騎でどこへ行くのだ」と尋ねると、存孝は「孟絶海を生け捕りにしに行くのだ」と答えた。
  • 嗣源が「なぜ一手の兵を連れて行かぬのか」と言うと、存孝は「父王のご命令だ、どうして背けようか。帰りが遅れることすら罪に問われるのだ」と答えた。
  • 嗣源は「それならせいぜい心して行くがよい。ただ孟絶海も勇悍の者と聞く、用心するがよい」と忠告し、存孝は繰り返し承知と答えた。
  • 存孝は陣前に進み出て「来る将、早々に降れ、わが刀剣を汚させるな」と大喝した。
  • 孟絶海は大いに怒り、みずから出陣しようとしたが、その左脇から副将の彭白虎が躍り出て言った。「この者は李克用配下の一頭目にすぎません。小将が生け捕って、軍旗への血祭りにいたしましょう。」そう言うなり槍をしごいて馬を駆り出した。
  • 存孝が「来る将、名を名乗れ」と言うと、彭白虎は「貴様こそ何者だ」と切り返した。存孝は「わしは晋王の世子、十三太保・飛虎将軍の李存孝だ」と名乗った。
  • 彭白虎は「わしは大斉王配下、前部大将軍の孟……」と言いかけたが、存孝は「孟」の一字を聞くなりその先を言わせず、槍を払いのけ、猿のような長い腕を伸ばして彭白虎を生け捕り、馬上へ引き取った。
  • そのまま河中府へ入り、晋王に「孟絶海を捕らえてまいりました」と告げると、諸侯は皆驚嘆した。だが白虎は「私は孟絶海ではございません、大将の彭白虎でございます」と言い出した。
  • 晋王は存孝に向かって大いに怒り、「孟絶海を捕らえてまいれと言ったのに、なぜ彭白虎を捕らえてきたのか」と叱った。存孝は「陣上でこの者が孟絶海と名乗ったのです。彭白虎とは申しませんでした」と弁明した。
  • 晋王は「もう一度あの賊を捕らえてまいれ、わしが問いただす」と命じた。
  • 彭白虎は言った。「小人はこれまで数多くの英雄を見てまいりましたが、これほどの豪傑は見たことがございません。私が黄巣の部将だと言おうとして、『孟』の一字を口にした途端、どうしたわけか馬上へ引き取られてしまったのです。」
  • 晋王は「この、口の早い賊め。処刑役の兵ども、引き出して斬れ」と言い渡した。

韓鑒を伴い再出撃

  • 晋王が陰陽生に時刻を問うと、「もう巳の刻でございます」と答えた。晋王は「存孝、午の時までを限りとする。それまでに必ず孟絶海を捕らえてまいれ」と申しつけた。
  • 存孝は「私は孟絶海の顔を存じません。目印となる者を一人同行させてください」と願い出た。晋王は「それはもっともだ」と言い、諸侯に「孟絶海の顔を知る者はいるか」と尋ねた。
  • 華州節度使韓鑒が進み出て「臣は孟絶海と同郡の出で、顔を存じております」と申し出た。晋王は「ではそなたが存孝とともに行き、目印となれ」と命じた。
  • 二人は楼を降りて馬に乗り、まっすぐ河中府を出て戦いを挑んだ。

班翻浪、討たれる

  • 孟絶海が腹を立てているところへ、戦いを挑む者があるとの報せが入った。絶海が応じずにいると、班翻浪が進み出て「小将、不才ながら一陣お受けいたします」と願い出た。絶海は大いに喜び、すぐさま甲冑を着けて馬に乗せ、兵を率いて営を出るよう命じた。
  • 班翻浪は真っ先に馬を進め、「来る将は誰だ」と大声で問うた。存孝は「わしは李晋王の第十三太保、飛虎将軍の李存孝だ。おまえは何者だ」と答えた。班翻浪は「わしは黄巣配下、孟絶海の部将・班翻浪だ」と名乗った。
  • 存孝は「わしが捕らえたいのは孟絶海だ。おまえのような小卒が出てきて何になる」と言い放った。怒った翻浪が槍を横たえて突きかかると、存孝は畢燕撾を振り上げて打ちすえ、脳漿を飛び散らせて馬の下に討ち殺した。この後どうなるかは次回に語られる。
  • 曲木子の詩がこれを詠んだ。(詩:存孝の武勇を称えた)
原文(底本)
卻說眾諸侯都來,架著二人刀劍,跪於面前日:「未曾討賊,先殺自家,恐於軍不利。」諸侯力勸,二人怒氣方息。溫插劍歸鞘,進曰:「非臣敢來殺君,實知外人議論大王,昏迷酒色,不理軍情。臣聽得此語,心懷不忿,故來相激耳!」晉王曰:「吾亦知之。」

  正論間,忽報黃巢駕下前部將孟絕海引兵來到。眾諸侯聽得,各皆驚疑。只有朱溫暗喜:「若是孟絕海的兵到,把這老賊哄出去試刀。」朱溫近前大叫曰:「如今孟絕海的兵到,請大王先出去見頭陣。」晉王怒曰:「朱溫!你這廝十分無禮,朝廷有旨,與我鈐轄天下諸侯,何用你多言?不是吾開大口,明日破黃巢,亦不用你眾諸侯,你下樓去,在吾那五百家將、十三太保內,不要揀吾的好漢,只揀一個瘦弱不堪的出去,擒那孟絕海來,吾面問巢賊的消息。」朱溫說:「大王不知孟絕海手段,臣且說與大王知之。這人是嶺南人氏,與黃巢起手奪唐東西二京,斬將三百八十餘員,但到陣前,誰敢與他比手,真個英雄無敵!」晉王說:「不必誇他,只消我揀一個瘦弱的出去便了。」

  朱溫急下樓來,看那五百家將,好似西天會下黑殺神,靈霄殿上游奕士;看那十三太保,都是上山打虎敲牙將,入海擒龍拔角夫。李嗣源、李嗣昭、李存勖、李存直、李存江、李存龍、李存虎、李存豹、李存受、康君利、李存信,只有十二個太保。朱溫問嗣源曰:「你父說有十三太保,今緣何只有十二個?」李嗣源曰:「那城牆下折槍竿上打盹的就是第十三個太保,飛虎將軍李存孝。」朱溫向前一看,大笑曰:「存孝身不滿七尺,骨瘦如柴,他也是太保?就揀他出去罷!」便把存孝頭搖了一搖,叫聲:「胡虜!你父有令。」存孝聽得叫他胡虜,心中大怒,一手抓過,舉起就摔,朱溫鼻口皆流鮮血,大叫:「太保饒命!」晉王在樓上看見,叫道:「不可!」存孝聽得晉王叫喚,即止曰:「造化了你,若非父王叫止,就把你捻成肉泥也!」遂放下朱溫,與他上樓。晉王心中暗喜,叫存孝云:「朱溫是個諸侯,如何與他玩耍?」存孝說:「不是兒與他玩耍,他叫兒是胡虜。」晉王最惱人叫胡虜二字。朱溫說:「臣知罪了!」

  晉王命存孝活捉孟絕海來,吾要問他個軍數。朱溫說:「這一個病漢,若活捉得孟絕海來,臣與存孝賭。」晉王說:「賭甚麼?」朱溫說:「存孝若拿得孟絕海,俺情願把腰問玉帶輸與他。」解說:「兒若拿不得孟絕海,兒就把這顆頭割與朱溫。」晉王說:「你兩個要賭,必須要兩個保官。」只見函國公袁容向前說:「臣保存孝。」節度使王重榮也向前說:「臣保朱溫。」言畢,存孝下樓,披掛上馬,逕出河中府去索戰。

  嗣源看見帶馬,問曰:「兄弟單騎,欲往何處?」存孝曰:「去活擒孟絕海!」嗣源曰:「怎不帶一支兵去?」存孝曰:「父王鈞旨,安敢有違?遲歸尚欲加罪。」嗣源曰:「既然如此,爾須用心前去,但聞孟絕海,亦是勇悍之人,可宜仔細。」存孝連聲應諾,即出陣前大喝曰:「來將速降,免污吾刀劍!」

  盂絕海大怒,正欲出戰,左脅下閃出一員副將彭白虎曰:「此人是李克用手下一頭目,待小將活擒過來祭旗,隨即綽槍驟馬直出。存孝曰:「來將通名!」彭白虎口:「爾乃何人?」存孝曰:「吾是晉王世子,十三太保飛虎將李存孝。」彭白虎曰:「吾乃大齊王駕下前部大將軍盂……」存孝聽得說出孟字,更不俟其說完,被存孝撇開槍,展猿臂活捉彭白虎過馬來,逕進河中府,見了晉王曰:「兒拿得孟絕海來了!」眾諸侯盡皆驚異。白虎曰:「我不是孟絕海,我是大將彭白虎。」晉王大怒曰:「叫你拿孟絕海來,如何拿了彭白虎來?」存孝說:「他在陣上說是孟絕海,那裡說是彭白虎。」晉王曰:「重去拿那賊來,我問他。」彭白虎曰:「小人看見許多英雄,從不曾見這樣好漢,我只說是黃巢部將,剛說出一個孟字,不知怎的,就拿我過馬來。」晉王說:「你這個急喉嚨的賊,刀斧手推出去斬了!」

  卻說晉王問陰陽生是甚麼時候?陰陽生答云:「巳時了。」晉王吩咐:「存孝,限你午時牌,就要拿到孟絕海。」存孝曰:「奈兒不識孟絕海面貌,尋個作眼的人同去。」晉王曰:「這個使得!」即問那眾諸侯:「認得孟絕海麼?」言罷,華州節度使韓鑒進曰:「臣與孟絕海同郡,卻認得他。」晉王說:「你就與存孝同去作眼。」二人下樓上馬,逕出河中府搦戰。

  孟絕海正惱,有人報請戰,絕海未應,閃出班翻浪向前道:「小將不才,願出一陣。」絕海大喜,即令披掛上馬,領兵出營,一馬當先,大叫:「來將是誰?」存孝曰:「吾是李晉王第十三太保、飛虎將軍李存孝,你是何人?」班翻浪曰:「吾乃黃巢駕下,孟絕海的部將、班翻浪是也。」存孝說:「吾要拿孟絕海,要你這小卒出來何用?」翻浪心惱,橫槍就刺,被存孝舉起畢燕撾,打得腦漿進出,死於馬下。欲知後事如何,且聽下回分解。

  曲木子有詩為證:

    英雄存孝世無雙,匹馬威風不可當,

    展臂生擒彭白虎,又捶翻浪立時亡。

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